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うつし世は夢、夜の夢こそまこと

Tigran Hamasyan / Mockroot / Nonesuch

Tigran Hamasyan / Mockroot / Nonesuch_d0157552_23583212.jpgTigran Hamasyan / Mockroot / Nonesuch
Tigran Hamasyan (piano, voice, keyboards, synths, sound effects)
Sam Minaie (b)
Arthur Hnatek (drums & live electronics)
Gayanée Movsisyan (voice on track 5)
Areni Agbabian (vo)


Ben Wendel (sax)
Chris Tordini (b)
Nate Wood (ds)
リリース:2015.2.17



Tigran Hamasyanの新譜です。レーベルがNonesuchとなりました。

好きな人はハマるし、ダメな人は駄目という盤

『Shadow Theater』からよりテーマが深彫りされた『Mockroot』なんですが、、、どちらもベースにはルーツ色があって双子のような関係。こちらはプログレ系ロックやメタル、ダブステップetc.の引き出しと以前より鮮明化したアルメニア系のサウンドと交錯してます。


プロローグから2曲目の「Song for Melan and Rafik」のテーマは祖父母へのオマージュで独特なボイスのハーモニーとリズム変化、揺らぎや緩急が激しい楽曲で42/16拍子。一聴してハマシアンらしい演奏。3曲目の「Kars 1」はトルコとの国境の町で起きた歴史をテーマに、9曲目と連動してます。ゆったりとしたグル―ヴ感に左手のおどろおどろしい響きが重い衝撃を感じさせる。「Double-Faced」も複雑な変拍子と2つのテーマが交錯しアコピとエレクトロニカ、さらにダブステップっぽさががゴチャっとした猥雑感を醸す演奏。ハマシアンらしいピアノが聴けますね。

「The Roads That Brings Me Closer to You」のボイスはGayanée Movsisyanでアルメニアのボーカリスト、クラシック系の方かな?ルーツ色がノリます。「Entertain Me」は一聴いてハマシアンのコンポジション・演奏とわかるもので、256/32拍子から35/16拍子に変わるらしいです。
「The Apple Orchard in Saghmosavanq」は12世紀のアルメニアの修道院をテーマにした楽曲。後半は動的なモチーフがあらわれてきます。「To Negate」はリズム変化と民族的な色合いがせめぎ合い、演奏もエッジがたってる。「Out of the Grid」ラスト曲は長いです。吟遊詩人のようなボイス&ソロ曲もあります。


Tigran Hamasyan / Mockroot / Nonesuch_d0157552_052048.jpg



激しいリズム変化などを聴いていて感じるのは、ハマシアンの現代と、故郷の過去と風景が交互に交錯しつつ表現されているのかな、...しかもそれは、彼の近しい人達ともリンクしているという.......立体的です。

『Shadow Theater』や『Mockroot』のベースにある"アルメニア"ですが、なんでここまでテーマにするのか、レーベルサイトや他をナナめ見たところ、ハマシアン自身はモノ心ついてから10年以上は米国のアルメニア系アメリカンのコミュニティで生活していたらしく、その当時は19世アルメニアやロシアの詩をよく読んだそうです。多感な時期は米国に居たという。ここ1年ほどは意識的にアルメニアの首都エレバンをベースに生活し、アルメニアの歴史や第一次大戦ぐらいまでの家族の歴史を紐解いたようです。目覚めたのは最近なのかもしれませんね。


なぜ彼がアルメニア文化や民族音楽にこだわるのか?
ハマシアンの故郷はトルコとの国境近くのGyumriだったせいもあり、家系は苛烈な歴史に翻弄されたと想像できます。ただ、彼自身は政治的な色合いを音楽で色濃く表現することは否定しています。
それでも、『アルメニア』を表現しようとする最大の背景にはおそらく、自国の分割やトルコがあるんじゃないかと思います。アルメニア自体は紀元前1世紀まで遡れば、大アルメニア王国と呼ばれ、古いらしいのです。現在のアルメニアはオスマン帝国時代の少数民族が近代アルメニアを形成(国の分割ですかね)してきたようです。さらに第一次大戦時の悲劇に納得できる答えが未だにありません。近い状況は中東・北西アフリカでもあります。アイデンティティ・クライシスまでいかなくても近い感覚があって、表現者として忸怩たる思いがあっても不思議ではありません。ハマシアンはまだ20代後半のピアニストですが。。

彼自身がLiveなアルメニア音楽で、歴史の束縛を解き放ちたいという、自由な意志に満ちているともいえます。真っ白になって聴くと活き々した音楽が映像的にひらくよう。

たしか4年前にはじめてハマシアンを聴いた時に、今って凄いピアニストがいてるんだなぁ、、と思いましたが、次回作はおそらくガラッと変わる、脱皮しちゃうんじゃないかと思います。もしくは完結編?






本人公式PV



演奏曲
1. To Love
2. Song for Melan and Rafik
3. Kars 1
4. Double-Faced
5. The Roads That Brings Me Closer to You
6. Lilac
7. Entertain Me
8. The Apple Orchard in Saghmosavanq
9. Kars 2 (Wounds of the Centuries)
10. To Negate
11. The Grid
12. Out of the Grid



これとかを聴いて、、、あらためて紀元前から近代までのヨーロッパ史・中東史ってのをざっくり読んでますw
おそらく数千回以上の戦争や目まぐるしい民族の移動や融合があって、ルーツにこだわる所以も然もありなんです.........
by kuramae2010 | 2015-02-20 00:22 | jazz